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『ラオスにいったい何があるというんですか?』村上春樹

カテゴリー:ステキな本たち、とか

 

今日ご紹介するのは、村上春樹さんの紀行文集『ラオスにいったい何があるというんですか?』です。


村上春樹さんの旅行記は、わりあい好きで、彼のヨーロッパでの滞在を綴った『遠い太鼓』は、無人島に行くとしたら持っていきたい本の一冊です♪
ちょうどいい具合に、分厚いし(^^


そして、今日ご紹介するこちらの紀行文集は、あちこちに書かれた紀行文をまとめたもの。
ボストン、アイスランド、ポートランド×2、ミノコス島&スペッツェス島、ニューヨーク、フィンランド、ラオス、トスカナ、熊本での滞在を綴った文章たちです。


まあ、旅行記っていうのは、たいていそうなんだと思いますが、その土地そのものではなくて、そのひとの目を通して浮かび上がるその土地の個性みたいなものから、そのひと自身のなにかも浮かび上がってくる、っていうところにおもしろさがあるように思います。
それを文章を通して追体験することで、その土地も疑似体験できるし、書いたひとのなにかも感じることができる。
読んでから「わああ、行ってみたい!」と思って、実際に足を運んだときも、きっと、自分だけの経験よりも、もっと幅広く奥深く、その土地を体験できるんじゃないかと思います。自分自身の視点と、書いたひとの視点と、両方とで体験するようなイメージ!?
沢木耕太郎さんの『深夜特急』なんて、きっと、その最たるものですよね。

わたし、春樹さんのインタビュー集も好きなので、もしかしたら春樹さんご自身や彼の視点自体が好きなのかもしれないですね。


そんなわけで、この紀行文集も、とても楽しく読ませていただきましたが、そんななかでも特に印象に残ったことがいくつか。

そのうちのひとつが、アイスランドの名物であるというパフィンという鳥です。
名物といっても食べるだけではなくて(食べることは食べるらしい)、カラフルなその鳥を見るのが、アイスランドの観光的な目玉であるようです。夏には、なんと600万羽ものパフィンが、アイスランド南岸の群島に巣をつくるんですって。ちなみにアイスランドの人口は30万人だそうですから、パフィンの勢い(?)がわかるというものです。


で、そのパフィンの生態についての文章が、わたしにはとても興味深く響きました。
ちょっと長いですが、引用させていただきます。
パフィンの親は、子供をある程度育ててしまうと、「あとはもう自分でやってね」という感じで、さっさと海に飛び立っていってしまう。あとにはまだ世間がよくわかっていない子供たちだけが取り残される。子供たちはある朝目が覚めると、自分が親に見放されていることに気づく。もう誰も餌を運んできてはくれない。しばらくのあいだは「ご飯まだかなあ」とじっと待っているのだが、いつまでたっても親は戻ってこないし、お腹はどんどん減ってくるし、切羽詰まって巣穴から出てきて、本能の導くままに羽を動かして、海に出て行って、自分で餌をとることになる。うまく餌をとれなかった子パフィンはそのまま死んでいく。すごく単純な世界である。人間だとこうはいかないですね。親に捨てられたりすると、たとえうまく生き延びても、それがトラウマとなって、あとの人生に差し支えたりするだろう。しかし、昨日まで身を粉にしてせっせと子供にご飯を運んできた親パフィンたちが、ある日突然「もうあとは知らんけんね」とぱっと態度を切り替えて、どこかに行ってしまうという、クリアな人生観には刮目すべきものがあるような気がする。


紀行文の続きでは、その子パフィンたちのことが描かれていますが、わたしにはこの「すごく単純な世界である。人間だとこうはいかないですね」というところがとても興味深く響きました。
たぶんちょうど自分自身を振り返って、「自分で自分の問題をよりややこしくしちゃっているんじゃないかしら」などと思っていたところだったので、シンプルなパフィンたちの人生観(鳥生観っていうべきか)が響いたのでしょう。

もう少し説明してみますと、いわゆるトラウマみたいなものは、もちろん原因となる何らかの事象はあるんですが、それにドラマティックなストーリーを勝手にくっつけて、より壮大な問題にしちゃっているのはわたし自身なんじゃないかな、と思っていたわけです。でも、そんなドラマティックにする必要はなくて、ただ「ああ、そういうことがあったんですね」と眺めてみて、解決すべきことがあったら淡々と解決すればそれでいいんじゃないかって、思っていたのです。

それがパフィンの人生観(鳥生観)とぴたっとはまったような気がして、「そうだよね~~~!」となった次第。

子パフィンは、親が急に来なくなったことについて、「私は愛されていなかったのだろうか」とか「私の何がいけなかったんだろうか」「あんなことをしたからだめだったんだろうか」とかストーリーを作り上げたりしない。ただ、「あら、餌がもらえなくなっちゃった。じゃあ、仕方ないから自分で取りに行くか」、以上。

わたしも、それくらいシンプルに行っちゃっていいんじゃないか、と♪

まあ、春樹さんのシンプルな文章を読んで、そんなふうにごちゃごちゃ考えている時点で、わたしはすでにシンプルではないですけれどね。




という具合で、春樹さんのアイスランド滞在記から勝手に哲学的な問答を繰り広げてみたわたしですが、時を違えて読むと、また違うところが響くんでしょうね。
それが本のおもしろさ。
またいつか再読してみようと思います。

 

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