伊坂幸太郎『砂漠』~あらすじなしで魅力を解説♡
カテゴリー:ステキな本たち、とか
伊坂幸太郎さんは、大好きな小説家さんのひとりです。
新刊が出ていると、吸い寄せられるように手に取り、毎回毎回、伊坂さんの紡ぐ世界に引き込まれて、あっというまに読了してしまいます。
淡々とした語り口。
個性的な登場人物たち。
彼らがすっきりと収まる秀逸なストーリー。
そんな伊坂作品。数ある中でも、わたしの一番のオススメが、『砂漠』です。
その魅力をご紹介してまいりましょう。
『砂漠』における伊坂幸太郎らしさ
伊坂幸太郎さんの作品の特徴は、まずはその卓越したストーリーテラーぶりであるといえるでしょう。
しつこいほど舞台が仙台であることから感じられる伊坂さんの仙台愛。
ところどころに他の作品のお話がこっそり入っていて、伊坂ファンだけがにやりとしてしまう。
これらのいかにも伊坂的な小憎らしい演出は、横においておいたとしても、彼の紡ぎ出すストーリーは本当に秀逸です。
また、その秀逸な筋書きのなかに描き出されている極めて個性的な登場人物たち。
そして、その素晴らしいストーリーや、個性的な登場人物を際立たせているのが、とても淡々とした伊坂さんの語り口なのでしょう。
淡々と語られるだけに、よけいその秀逸さや個性が浮かび上がります。それが、伊坂ワールドを、読んでいるわたしたちの前に、生き生きと深みを持って再現してくれます。
そんな伊坂ワールドを、一番純粋に堪能できる作品が『砂漠』である、とわたしは思っています。
青春小説としての『砂漠』
そんな伊坂さんのこの小説。
ひとことでいえば、青春小説です。
淡々と綴られているのは、主人公が大学に入学してから卒業するまで。
他の伊坂作品以上に、淡々とストーリーは進んでいきます。
普通であれば驚くような事件やイベントがおきていても、あくまで語り口は淡々と。
内容については、ここではあまり触れません。
ただ、簡単にまとめてしまうと、主人公たちが遭遇するいろいろなできごとが時系列に綴られていく、というある意味散漫ともいえるストーリーです。
なにか結論めいたモノを求める方は、読み終わった後、
「だからどうしたのだ」
と言いたくなるかもしれません。
でも、「だからどうしたのだ、ということもない」日々やできごとたちが、淡々と語られていくなかで、そのできごとや、登場人物が、自分のなかで存在感を増してくるのを感じます。
読み終わったあと、自分の学生時代を懐かしく思い出してしまいました。
さわやかな読了感、とでも言えるでしょうか。
この小説とは似ても似つかぬわたしの学生生活なんですけどね。
たぶんあなたも、この本を読み終わった後は、わたしと同じようにご自分の青春時代を、生き生きと思い出すのではないかと思います。
この小説とは似ても似つかない青春時代であったとしても。
人間であることの醍醐味
そして、この『砂漠』で引用されているサン・テグジュベリのことばが、わたしのなかにとても鮮明に残っています。
『人間であるということは、自分には関係ないと思われるような不幸な出来事に忸怩(じくじ)たることだ』
つまり、ある登場人物に言わせると、
「人間とは、自分とは関係のない不幸な出来事にくよくよすることですよ」
もうひとつ、わたしの印象に残った引用が。
『人間にとっての最大の贅沢とは、人間関係における贅沢のことである』
そんな小説です。
オススメ♡
小説は、いま自分が生きている実世界以外の世界を、つかの間、わたしに見せてくれます。実際の世界と似ていることもあるけれど、全然違う世界をみることもできる。そこではわたしは自由自在です。
そして、その虚構の世界と、実際の世界と、行ったり来たりする独特の浮遊感。
たぶん、その感覚が好きで、わたしは、今日もまた小説を読んでいるのでしょうね。
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